
2025年冬:パリ出張記録
最後にパリにいたのは、2019年のコロナ前。思い起こせば、あれから5年もパリ市内には行っていなかった。振り返れば、人生で一番長く住んでいた外国の街。色々と知り尽くして、「最早しばらくパリは良いか!」と思うほどになることもあったけど……
今回はありがたく、お仕事の機会で再びパリにやって来ました。わくわくする想いと感想を、せっかくなので大好きなMy blogの記事にしてみました。
Table of contents
筆者のお仕事について少々......
そもそも筆者の仕事を知らない人も多いので……少し説明しますと、私は「ビジネスをデザインする」というコンセプトでクリエイティブな企画に携わっています。まだ、日本では聞き慣れぬコンセプトですが、発想としては、「デザイン」の要素を「経営」に取り入れ、システムやオペレーションを構築することを目指しています。
その一環として、日本の伝統工芸を欧州市場に広めるプロジェクトに関わっています。個人では、ぽつぽつコラボレーションや有名ブランドとのタッグが目立ち始めているものの、それは限られた話。日本の伝統、文化、歴史保護や地域と都市の格差解消のためには、これから本気で行動を起こす必要があります。
日本の優れたクリエイティブピープル

昨今はパリでも、パティシエのサダハル・アオキ、デザイナーのイッセイ・ミヤケや高田賢三といった、優れた日本人の名の出現により、日本のクリエイティブ性が高く評価されております。
近年では建築家の隈研吾や安藤忠雄なども注目を集めています。
しかし、人気が高まるにつれ、「文化」を経済産業として存続するための、課題も浮かび上がっています。
世界の「ものづくり」や「消費」への目は変わっています。
私たちは、単に「輸出」したり、「押し売り」になるのではなく、双方の利益をうまく両立させながら、中長期の視点で文化産業をどのように共創できるかを問い直す時期に来ているのかもしれません。
これから、どのように日本の文化産業を構築していくのかは、日本経済にとっても一つの重要な鍵です。
現地調査:日本の食、モダン伝統雑貨、フランスの職人支援制度
今回はパリ近郊で開催された「C’est bon le Japon!」という展示会にも足を運びました。「日本は美味しい!」というテーマのもと、食とポップカルチャーを軸にしたイベントは大盛況。B級グルメの人気には驚きました。一方、出店している企業は現地の企業や飲食店がやはり多く、中には普通の日本人の発想から得られないような食べ物も売られていたり。我々日本人がすると、やばいくらいお高めな値段ですが、それでも食べにきてくれる人がいるくらい、日本の文化はヒットしているようです。
以前は一部の趣味人たちに愛された「ジャポニズム」も、今や大衆文化としてパリに深く根付いているのでしょうね。






それ以外にChambre de métiers et de l’artisanat de Paris(CMA)「フランス職人・手工業者会議所」やMeilleurs Ouvriers de France(MOF)「全国フランス最優秀職人協会」といった伝統技術を守る機関を訪れ、フランスの政策や仕組みがどのように職人を支援し、伝統や文化を産業として成立させているのかを伺いました。フランスではCMAやMOFのような活動を通じて、伝統や文化に寄与する職人の育成と、彼らの販路開拓に貢献しています。
印象深かったのは、やはり「職人」とは、「自営業」のような概念と結びつくということ。こうした観点から、スキルを持った職人が経営面で独立する手助けをしているとのことです。
パリの変化
今回はオリンピック後だったこともあり、街そのものが大きく変化しました。今回はDéfense地区のメルキュールというビジネスホテルに宿泊したため、パリ都心からは少し遠かったです。けれど、郊外から都心へのアクセスが格段に良くなり、Défenseから8区まで30minくらいに短縮されました。
そして、フランスの悪評の定番の地下鉄の駅も、清潔さも以前より向上しているように感じました。
メトロの壁を丁寧に磨く黒人男性の姿(こういう人も立派にフランス人なのがフランスの良いところ)に、パリのポジティブな変化を感じました。



これから、日本の「伝統」を武器に戦いたい
さて、今回の仕事の大事な予定の一つが、現地にいる古くからの日本の友人との対談です。日本の伝統や文化を主題にしたお仕事を、長年されているだけあり、現地の文化やご事情には大変詳しいです。
日本の「伝統工芸」を主題に、今後パリでクリエイティブな企画を創出していくとすれば……成功の秘訣はどこにあるのか?
まず、大切なのは、「企画の具体性、内容、ビジョン」の明確さ。自分が何をしたいのか、最初から思い描いてどんどん自己主張する方が、フランス人には伝わりやすい。
それから、現地をよく理解しているフランス人「ビジネスパートナー」との協力。もしくは、フランス人と同じくらいフランスの市場/文化/思想を理解している人との連携。そして、この人はフランス語で完全にフランス人と対等に意思疎通ができないと、本当の意味での価値のある実績作りは難しい。(ここは日本人が一番ダメなところででしょうね……)
確かに、ソロで成功していらっしゃる日本人のクリエイティブ業界の方々は、ご本人は仏語がビジネスや抽象性あるものについてまで語れるのはもちろん、現地との交流において、「言語」の大切さを理解しています。
パリで生存する事の厳しさ
もちろん、パリという都市はクリエイティブへの目が厳しいですし、競争も激しいです。「なんとなく」な芸術の企画や「それっぽいもの」も昨今は、日本の伝統工芸界隈において大変多いですが、異国の文化の価値を届け、反響を得るためには、相当なレベルでの美術や努力が必要ということです。
お会いする方は、皆様長年パリで生き残っているので、「はっきりというと日本の美術やクリエイティブのレベルの低さ」を課題視します。
イベントにしても、プロダクトにしても、そこに投資が必要なのは、明瞭ですが、それにしても「芸術性」や「創造性」の本質を理解せず、肩書き、ステータス、実績だけでアートディレクションやデザイナーを選択した結果なのでしょう。
もしくは、投資はしているけれど、正しい方向に投資する必要があります。そして、こうした美の領域において、正しい投資は経営者の趣向や事業の責任者のやりやすさなどではなく、「アウトプット」に対して、徹底的に専門性の目を交えて判断する必要がありますよね。
パリでクリエイティブな成功を遂げるには?
最後の最後に来て、なんだか「とても厳しい!」「自分頑張れるかな?」と
落ち込んだ方もいるでしょうか?
けれど、私はむしろ、今落ち込んでいらっしゃる方、日本ではあまり花が咲かないと感じている方、自分は今まで大きな舞台とは無縁だったと感じている方にこそパリに出ていってもらいたいです。
パリは日本とは異なります。真逆と感じる人も多いでしょう。良し悪しはありますが、「個性ある人材」に対して圧倒的に寛容であると感じます。
彼らにとっては、「売れそう」とか「売れなさそう」とか、経営者視点だけでなく、「とにかくあなたのユニークさ」を見せてみなさいと言います。それが、日本では「変わり者だね」とか「ちょっと変わっているけれど、社会の成功の枠組みにはまらないね」となると、出世や大きな案件はいただけないことも多いでしょう。
でも、「売れるか」「売れないか」という米国資本主義のマーケット理論の発想だけに基づいて判断していると、素晴らしい芸術、文化、創造力をうまく産業にしていくことはできません。
デザイナー、画家、映画監督、様々な職種が存在しますが、日本では残念なことにこうした職種はあまり社会において重要視されておりません。それは、かつての日本が貧しくて、文化に投資している場合ではなかったというのもあるでしょう。
ですが、そんな時代から、多くの日本人がパリに出て素晴らしい成功を収めたのも事実です。画家の藤田、高田賢三、イッセイ・ミヤケなど、まだ日本がアジアのどこかの小さな国とすら認識されていない時代に切り拓いた方です。だからこそ、是非とも現代を生きる皆様にも頑張っていただきたい!認識されていない時代に切り拓いた方です。
夢のような舞台を諦めないで
今回のパリでの旅路はスピーディーでしたが、それでもパリっぽさを久々に体感した出張でした。いつでもパリは、新しい芸術のひらめきをくれる!そんな空気でいっぱいの都市です。どうか、この記事を読んでくれている人で、クリエイティブの夢がある方も、パリにいくことを検討してみてください♡
